発見のフィールドに立って [コラム]

「食えないから、やめときな」

 良識ある大人はこう忠告してくれた。私が考古学の道を目指し大学進学を考え始めた頃だ。それから30年、大方の予想に反し、細々とではあるが今も考古学で飯を食っている。
 私が勤めているのは浅間山が美しく見える小さな町の考古学博物館である。国立の研究機関や大学の考古学研究室などからすれば、研究の最末端にいて、もがいているといっていい。

 人は時々、私の立場を哀れんでくれたりするが、特に悲観してはいない。それは考古学という学問が地位や名声にかかわらず平等に門戸を開いているからだ。考古学など野外科学が魅力的なのは、フィールドとわずかな志さえあれば、どんな立場でもやっていけるからである。
 やや負け惜しみに聞こえるかもしれないが、都心のビルの革張りのいすにすわる大学教授より、遺跡という現場に直面した在野の研究者は最前線にいるということもできる。
 同じ考古学者であるインディ・ジョーンズ氏の行動はスリルとサスペンスに満ちているが、こちらはそう格好良くはいかない。古墳の暗い石室で生々しい白骨と対面したり、トイレらしき穴を泥まみれで発掘したり、さえない体験も少なくない。

 それでも私を考古学へと駆り立てるもの、それは「発見のフィールド」にある。
 「ドーナツが出た!」
 90年夏、浅間山麓の縄文遺跡から出た4500年前の土器を見て、発掘参加者が叫んだ。駆けつけると、それはドーナツ状の文様で飾り立てた焼町(やけ・まち)土器と呼ばれる優れた原始造形だった。
その時に感じた胸騒ぎが9年後、的中する。焼町土器など100点以上が日本を代表する国重要文化財に指定されたのだ。うれしさがこみ上げてきた。だから考古学はやめられない。

朝日新聞(長野版) 2008.10/1 掲載コラム 
http://mytown.asahi.com/nagano/news.php?k_id=21000190810010002

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五十嵐彰(伊皿木蟻化)

毎日の更新お疲れ様です。毎回楽しみにしています。
そして池谷2009『黒曜石考古学』:151頁に対する応答にも注目しています。私も同:302頁に対する応答を準備中です。
益々の御活躍を祈ります。
by 五十嵐彰(伊皿木蟻化) (2009-04-21 12:30) 

八ケ岳

ありがとうございます。
最初はどうも毎日更新しないと気になりますね。
気軽に書くぶん、できる限り更新します。
『黒曜石考古学』の論文も熟考してみます。
by 八ケ岳 (2009-04-21 23:20) 

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